深堀研究

 第2話でフォーカスエラー、第3話ではトラッキングエラー検出方式を中心に述べてきた。今回は、それらのエラー信号を光学要素(対物レンズ)に供給して読取りビームスポットが光学式ディスクの信号記録面に焦点を結び、かつ、記録面の渦巻状のトラック上をスキャンするようにフィードバック制御する制御装置について述べる。

 先行開発された光学ビデオディスクにおいては、フォーカスエラー信号を対物レンズに取付けられたコイルに供給して電磁的に対物レンズをディスク面と直行する方向に駆動して常に合焦状態に維持制御する一方、トラッキングエラー信号をガルバノ・ミラーに供給してトラックと直交する方向に駆動して常に読取りビームスポットがトラック上を正確にスキャンするように制御する構成(下図)が実用されていた。

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 この構成は、フォーカスでは対物レンズを、トラッキング制御ではガルバノ・ミラーを、すなわち、2つの光学部品の夫々を可動可能に支持し、個別に制御する構成を採るので、コンパクト化、部品数、生産性、コストなど、発展性に欠けるものであった。
 ガルバノ・ミラーを駆動する代わりに対物レンズをトラック方向と直交する方向に駆動し、トラッキング制御する試みは、特開昭48-101103号(トムソン社;優先権出願日1972年2月29日、特公昭58-55566号、特許第1432573号)(下,最左図)に記載こそされてはいたが、この対物レンズをフォーカス方向にも駆動制御する記載はなかった。

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 上記トムソン特許公開から11ケ月経過後に出願された特開昭51-61726号(ヤマハ;特公昭59-29991号、特許第1258054号)において、初めて対物レンズをフォーカス方向とトラッキング方向の少なくとも2方向に駆動する発明を認めることができるのであるが、トラッキング装置とフォーカス装置が上図(第3図、第6図)の様に別々に図示され、初期的な技術開示にとどまっていた。トラッキング装置とフォーカス装置が連携した具体的な装置(今後、2軸デバイスと称す。)は、上記ヤマハ特許出願の略2週間後に出願された特開昭51-68121号(JVC;特公昭58-17973号、特許第1187658号)(下図)に多数の実施例とともに記載されていたが、トラッキングとフォーカスの磁気回路が個別に設けられたものであった。

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 ソニーから発売された最初のコンパクトディスクプレーヤ(型名CDP-101)では、対物レンズ(28)保持筒(21)を軸支(9)する構造を採用し、ディスク面と直行する方向に対物レンズ保持筒を摺動させてフォーカス制御を、ディスク面と平行な面で対物レンズ保持筒を回動させてトラッキング制御を行う2軸デバイスが搭載された。この2軸デバイスに関して基本構想に係わる出願(特開昭57-120240号、拒絶査定)、実装技術出願(特開昭57-210456号、特公平2-26296号、特許第1624774号)(下図)などがあった。

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 前者は残念なことに、発明者の発明構想が充分に反映された明細書、図面の記載となっておらず、結果的には拒絶となっている。発明の把握にあたっては、技術の原理を理解し、その原理に則って明細書を作成することが肝要である。発明者のなした発明を擁護する立場にある特許実務者は、常常、肝に銘じ、職務を遂行しなければならない。

(記:吉田敏男)