深堀研究

<対象者> 企業技術者、知財

 

1.分割出願とは?


 分割出願とは、先に出願した元の特許出願(原出願)の中から、別の発明を分けて行う出願のことです。希望する発明の出願をしながら、特許性判断日は原出願の出願日に遡るなどメリットが多い制度です。

 

 

2.分割出願が可能な時期


 分割出願が可能な時期は次の3種類です。

 

(1)原出願の手続き補正が可能な時

 手続き補正の一種の側面があります。

 

(2)原出願が特許査定を受けた時。正確には特許査定の謄本送達日から30日以内

 拒絶理由通知を受けずに特許査定を受けた場合、手続き補正はできませんが、代わりに分割出願は可能です。

※注意:特許の設定登録後は特許庁へ係属しないため(つまり、出願中ではない)、分割出願は設定登録後にはできなくなります。そのため、分割出願の可能性がある場合、設定登録料納付(特に包括納付をしている場合)は分割出願と同時に行う等、設定登録が分割出願後になるよう注意が必要です。また、拒絶査定後は、(前置審査等において)特許査定を受けても分割出願はできません。

 

(3)最初の拒絶査定を受けた時。正確には第1回目の拒絶査定の謄本送達日から3月以内

 拒絶査定不服審判を請求するときの補正は、補正可能な内容が制限されています(特17条の2第4項、第5項)が、分割出願はこれらの制限は有りません。原出願は、権利化を図るために審判請求時にこれらの制限内のクレーム補正を行いながら、分割出願は、制限を受けなく広くする等自由にクレームを作成して、原出願と分割出願ともに権利化を図る使い方が多いです。

 

 

3.分割出願が認められる条件


(1)形式面

① 原出願が出願中であること

 出願の処分が確定して、特許の登録、拒絶確定等となった場合は、分割出願はできません。

② 出願人

 原出願と分割出願の出願人が、分割時に同一の必要があります。この場合の同一は、複数人いた場合は完全一致で、例えば原出願の出願インがA,B2名の場合、分割出願の出願人もA,B2名です。分割後は、出願人の変更は可能です。

 

(2)内容面

① 原出願の記載範囲内

 分割出願は、原出願の出願時及び分割直前の、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明を分割することができます。要約からは分割できません。

② 原出願と分割出願は別発明

 同一発明の場合は、特許法第39条第2項により拒絶されます。従属クレームも対象ですので、注意が必要です。ただし、(1)② に記載したように、2件の出願ともに同一出願人のため、対応は比較的容易です。同一との指摘に対する内容的な回避が困難な場合であっても、一方の出願(例えば原出願)のクレーム内容を、他方の出願(例えば分割出願)のクレームで「除く」形式とすれば、重複は回避できます。

 

 

4.分割出願のメリット、デメリット


(1)メリット

 分割出願を適法に行えば、特許性の判断時期が原出願の出願日に遡ります。先願主義の中で、明細書等の中に必要な事項が揃っていれば希望する内容の発明を分割でき、かつ、特許性の判断時は遡及します。また、審査を受けた後では、特許庁の審査によって判明した公知文献を見ながら、分割が可能です。

 出願後に、クレームに記載しなかった事項で重要性が高くなった時に、非常にメリットがあります。

 

(2)デメリット

 出願数が増えることによって、出願の手間と納付手数料が増えることを除けば、デメリットは特にありません。

 

 

5.分割出願の利用方法


 分割出願の主な利用方法を挙げます。実際の目的は(1)、(2)、(3)中の複数の目的の組み合わせの場合が多いです。

 

(1)技術の権利化

 上記2(3)の拒絶査定不服審判のように、特許の権利化が難しい時、実質同じ技術や周辺技術を、原出願とは異なるクレームとして、分割出願をすることがよくあります。

 

(2)出願の延命化

 (1)の出願方法と似ていますが、分割出願を行うことにより、特許庁へ係属している状態を続けることができます。分割出願をすることにより、

 ・権利化が困難な原出願の拒絶が確定しても、同じ明細書を有する出願は継続しており、他社への影響力ある出願の権利化可能性が残る。

 ・技術動向を見て重要な技術を選んでクレームする。

等のことが可能となります。平均的には、分割出願から審査開始まで1年強かかりますので、分割出願1件で1年強、延命が図れます。

 

(3)出願後に重要性が判明した技術を分割出願する

 出願後数年経過してから、出願した発明の評価が高まり、既に出した原出願の明細書、特許請求の範囲、図面を精査し、出願になる発明を探して分割出願を(場合によって複数件)出願する場合もあります。

 

 

6.分割出願での注意事項


(1)内容面

 上記したように、原出願の明細書等の記載範囲内の発明を分割する必要があります。特に化学系の発明の場合、分割する発明も、実施例等による具体的な実証データが原出願の出願時から必要です。

 

(2)形式面(知財向け事項)

① 出願審査請求が必要

 分割出願も正規の特許出願ですから、審査を受けるためには出願審査請求をする必要があります。分割出願の場合の審査請求期限の原則は原出願日から3年ですが、分割出願では、上記3年を経過しても分割出願から30日以内は審査請求が可能です。

② 上申書の提出

 特許庁からは分割出願について、特に審査請求書提出前に、上申書の提出が要請されています。要請の内容は詳細で、次のURLに記載されています。

https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/sakusei/bunkatu_yousei.html

 

 

7.付記:比較例からの分割出願


 明細書に記載された発明であれば、記載された箇所は問わないため、場合によっては比較例を分割出願することも可能です(例えば、特公平7-91486号)。比較例には公知文献相当の技術を記載する場合が多いですが、特許請求の範囲の新規性、進歩性を説明するために、公知か否かに限らずクレーム範囲外を比較データとして記載した場合に、この比較データも分割出願の対象となる場合があります。

 上記公告公報では、自社の数年前の出願(原出願)の比較例に、出願後に重要度が高くなった結晶型が記載されており、その比較例の内容が分割出願されました。

 上記公告公報の場合は、明細書の補正が現在より緩い時期の出願であったため、分割は認められ易かったです。現在でも、比較例であっても産業上の有用性、記載要件(明確性、サポート要件)とともに新規性、進歩性がクリアできれば、分割出願の権利化は可能です。

 実施例が必要な化学系の出願の場合でも、新規化合物は可能性がありますので、頭の片隅に入れていただければ幸いです。

 

 

※参考:特許・実用新案 審査基準第VI部第1章 特許出願の分割(特許法第44条)

 

 

以上

(記:松尾 由紀子)