<対象者> 企業技術者、知財、経営者
Q:自社でのみ実施する製造装置を発明したのですが、特許出願すべきかノウハウとして秘匿すべきか悩んでいます。その判断基準とそれぞれの留意点を教えてください。
A:非常に悩ましい問題で、多くの判断基準に基づき、出願する場合しない場合のメリット、デメリットを考えた総合的判断が必要です。
1)その発明を他社に権利化されたらコンプライアンス上事業継続できなくなるリスクがあります。とはいえすべて出願するのも他社に公開してしまうという問題があります。
2)主な判断基準は、以下です。
・業界や競合の環境:秘匿が難しい業界か(例:他社に製造現場を見せる必要あり、人材流動が激しいなど)、競合は出願しているか
・自社の事業ポジション:先行か後発か、発明の海外技術移転の予定はあるか
・発明技術レベル:他社の独自開発が著しく困難な技術か、容易に追従、回避できる技術か
・ノウハウの社内管理体制:法的保護を受けるための3要件をすべて備えた管理ができているか
3)出願する場合の留意点
・単純に実施技術を出願明細書に記載するだけではなく、できるだけ周辺技術も紛れさせて実施内容が特定されないようにする
・出願後公開前に秘匿の必要性を再度見直す
4)出願せずにノウハウとして秘匿する場合の留意点
・ノウハウ管理体制の確認、整備
・先使用権確保の準備(実施発明内容の公証認証、タイムスタンプによる確定日付など)
参考:先使用権の立証は難しいが、他社との交渉で相手に自社の先使用を説得できた経験あり
個人的には、事業継続できないリスクとノウハウの法的保護要件の厳しさの点から、原則として特許出願すべきと思います。企業のコンプライアンスが重視される中、権利侵害している企業に持続的発展はない、と考えるからです。
以上
(記:谷川 正芳)