セリオレポート

 

 近年、ディープラーニングを中心に、AI技術がめざましい発展をみせており、AI関連の特許出願も幅広い産業分野にわたって出願件数が増加しています。下に示すグラフは、特許庁の「AI 関連発明の出願状況調査 報告書」から引用したAI 関連発明の出願件数の推移です。

 1990年頃に第二次AIブームがあり、その後、出願件数が低調に推移していましたが、2012 年にカナダのトロント大学のチームが、世界的な画像認識のコンテストにおいて深層学習を使って圧勝したことが契機となり、第三次AI ブームが始まりました。日本全体の件数は近年低下傾向で30万件程で横ばいであるにもかかわらず、AI関連発明は、AI 関連発明(ピンク棒)は 2014 年以降急激に増加しています。

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 AI関連発明には、AIコア発明とAI適用発明があります。グラフの黄色はG06NというAIなどの計算処理に関係する特許分類が付与されたAIコア発明の出願件数です。第三次AIブームでは、コア発明と適用発明の両方ともに件数が増加していることがわかります。

 

 また、こちらも特許庁の報告書からの抜粋になりますが、G06Nという特許分類の下位階層の出願件数の推移を見ると、1990年代前半は、G06N3/02-3/10(ニューラルネット)、G06N5/(知識ベース)、G06N7/(ファジィ論理等)、G06N20/(機械学習)のいずれの出願も増加しましたが、その後減少に転じており、知識ベースやファジイ理論については、現在においても出願件数は低水準のままです。2014 年以降の出願増は、いわゆる第三次AI ブームの影響と考えられ、その主役はニューラルネットを含む機械学習技術です(中でも深層学習技術が主要な地位を占めます)。図をみると、第三次AI ブームの出願件数を押し上げている要因は、G06N3/02-3/10 とG06N20/であることがわかります。

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 G06N が付与されている出願のうち、G06N3/02-3/10 又はG06N20/が付与されている出願の割合を機械学習率とし、その推移を示したのが右上の図です。長年50~60%程度で推移していた機械学習率は2013 年頃から上昇し、2019 年には90%に達しています。近年のAI 関連発明の大部分が機械学習によって実現されていることがわかります。

 

 では、外国を含めた特許出願状況はどうでしょうか。機械学習系AIの国別出願状況(G06N3/02-3/10, G06N20)2000~2009年の10年間では、第1位は米国、第2位が日本でしたが、2015年以降は中国の出願件数が米国を上回る勢いで増加しています。出願件数もまさに桁違いで増えています。韓国でも高い伸び率で上昇し、日本や欧州の出願件数を超えていることも特徴です。

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 出願人と発行国別件数のマトリクスの図を見てみましょう。出願件数の上位30位は、中国企業が大半を占め、日本企業は上位にいないことがわかります。また、当然ながら、通常は、企業は自国への出願が多い傾向があります(サムスン等の例外はあります)。特に、中国企業は、自国のみに出願する傾向が強く表れています。外国特許であっても日本にファミリがあれば日本公報を確認できるのですが、外国企業から日本への特許出願が少ない傾向にあります。つまり、日本特許だけの調査をしていると世界の技術動向の把握が難しくなっているとも言えます。

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 以下は、AI関連発明の特許出願に複数付与された特許分類などを基にして、産業分野別のAI関連出願件数の推移を示すマップです。縦軸は産業分野、横軸は時間軸を示しております。このマップは、特に第三次AIブームになって、AIの適用先が急激に拡大し、幅広い産業にAIの利用が浸透していることを裏付けています。

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 AIは、これまで画像処理の分野での適用が主流でしたし、今でも画像処理系の出願は多数でております。典型的には、自動運転分野における、画像処理が挙げられます。例えば、出願人ランキングの3位の百度(Baidu)は、オープンソース化した自動運転プラットフォーム「アポロ(Apollo)」を推進しており、130社以上の企業が参画しています。アポロのプラットフォームを利用したロボタクシー(Robotaxi)が2021年7月、広州で一般向けに配車予約サービスを始めています。事前予約不要で利用可能であり、広州では現時点で最大規模の自動運転モビリティサービスです。バイドゥの自動運転タクシーを利用する場合、「百度地図」アプリから呼ぶ方法、もう一つはApollo GOアプリから呼ぶ方法があるとのことです。
 先程の出願人ランキングで第3位であるということも、自動運転関連のAI発明が多数出願されていることが寄与しています。

 

 それでは、自然言語の世界では、どうでしょうか?自然言語処理系のAI発明の特許出願件数では、百度、腾讯、平安科技がTOP3です。上位15位以内では、IBM、マイクロソフト、Googleが善戦しています。自然言語のAI関連発明の出願で使われているワードのランキングを見ると、自然言語の世界では、言語ベクトル、リカレント型ニューラルネット、BERTモデル、BiLSTM等の技術がよく使われていることがわかります。

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 従来からあるワードをベクトルにするといったベクトル化などの分散技術に加えて、時系列やシーケンスデータの深層学習に関係の深い用語が多いことがわかります。特に、リカレント型ニューラルネット、BERTモデル、BiLSTM等の技術は、自然言語処理のAIの特徴であり、これが高精度の検索や翻訳に活かされています。

 

 ちなみに、BERTとは、Bidirectional Encoder Representations from Transformers の略で、「Transformerによる双方向のエンコード表現」と訳され、2018年10月にGoogleのJacob Devlinらの論文で発表された自然言語処理モデルです。翻訳、文書分類、質問応答など自然言語処理の仕事の分野のことを「(自然言語処理)タスク」と言いますが、BERTは、多様なタスクにおいて当時の最高スコアを叩き出しました。BERTの特徴として「文脈を読むことが可能になった」ことを挙げられます。BERTにはTransformerというアーキテクチャ(構造)が組み込まれており、文章を双方向(文頭と文末)から学習することによって「文脈を読むこと」が実現しました。さらに、BERTは、少量の教師データでチューニングすることで、対象の課題に対して高精度を実現できるといわれています。

 

 BERTは、もともとGoogleによって開発された自然言語処理の機械学習手法ですが、それを中国語向けに改良したERNIEは、グーグルやMSをしのぐと言われているほどです。BERTに関する百度の出願は、日本出願もあり、確認ができます。

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 中国国内出願に留まる中国企業が多い中で、百度は外国への出願を活発化させています。機械学習×自然言語の日本特許出願においても、百度の参入の勢いが止まらないといえます。日本に出願があるのは、調査をする側にとっては、日本語で内容を把握できるのでありがたいことですが、いち早く最新技術を拾うという目的の調査では、日本特許だけを見ていると立ち遅れてしまう可能性があります。
 そのため、特許調査において、今までは国内特許の分析で、ある程度外国の技術動向も把握できることがありましたが、最近では、どうしても外国語の公報を読まなければならない機会と負担が増えているのが現状です。

 

以上

 

2022年 8月 29日

記:石井 琢哉