平成25(行ケ)10163(平成26年1月30日)
発明の名称を「帯電微粒子水による不活性化方法及び不活性化装置」とする特許発明について,審決の相違点の判断に誤りがあるとして,審決が取り消された事例。
審査における引用発明の認定に当たって本件特許明細書の記載を参酌することは『後知恵』であるとして認められない、とされた注目判決である。
発明の内容
本発明は、大気中で水を静電霧化して,粒子径が3~50nmの帯電微粒子水を生成し,花粉抗原,黴,菌,ウイルスのいずれかと反応させ,当該花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れかを不活性化することを特徴とする帯電微粒子水による不活性化方法に関する。
審決の内容
「審決は,甲4公報に高電圧により大気中で水を静電霧化して生成された帯電微粒子水がOHラジカル等のラジカルの発生を伴うことが記載されていることを前提に,甲1発明1の内容を解釈するに当たり,本件特許明細書の【0031】ないし【0033】,【0041】及び【0042】の記載,本件特許明細書の図5(別紙1参照。なお,引用刊行物にも,Fig.6として同内容の図が記載されている(別紙2参照)。)の記載と引用刊行物の記載事項を照らし合わせた上で,引用刊行物に記載されたものが,本件特許明細書に記載されたものと同様の構成の静電霧化装置によって水を霧化させ,粒径計測で20nm付近をピークとして10nmないし30nmに分布を持つ帯電微粒子水を得ているものであるとし,甲1発明1における帯電微粒子水は本件訂正特許発明1と同様にOHラジカル等のラジカルを含んでいると考えるのが妥当である,との認定判断をしている。」
判決の内容
判決は、「審決の認定判断は,甲1発明1の内容を解釈するために本件特許明細書の記載を参酌しているところ,本件優先日時点においては本件特許明細書は未だ公知の刊行物とはなっておらず,当業者においてこれに接することができない以上,甲1発明1の内容を解釈するに当たり,本件特許明細書の記載事項を参酌することができないことは明らかである。・・・本件特許明細書に記載された図と同内容のFig.6の粒子分布が引用刊行物に記載されているとしても,本件優先日時点の当業者において,上記粒子分布を有する引用刊行物記載の帯電微粒子水がラジカルを含むものであることを認識することができたものとは認められない。」として審決を取り消した。
同様の判例
平成26(行ケ)10107 (平成26年12月24日)においても、「本件出願後に公開された本件明細書の記載内容を参酌して甲15記載の保護素子の外部ケースの構造を理解することはない。」として審決が取り消されている。
審査基準との関係
上記等の判決を反映して、2015年10月1日から適用になった審査基準(第III 部 第2 章 第3 節 新規性・進歩性の審査の進め方 3. 引用発明の認定)には、3.3留意事項として、「審査官は、請求項に係る発明の知識を得た上で先行技術を示す証拠の内容を理解すると、本願の明細書、特許請求の範囲又は図面の文脈に沿ってその内容を曲解するという、後知恵に陥ることがある点に留意しなければならない。引用発明は、引用発明が示されている証拠に依拠して(刊行物であれば、その刊行物の文脈に沿って)理解されなければならない。」が追記された。
以上
(記:加藤)